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作家、仏文学者、評論家として著名な澁澤龍彦は、「夢のある部屋」というエッセイで、「つくし」にまつわるほほえましいエピソードを残しています。
北鎌倉の円覚寺裏手にある澁澤邸では、春になるとおびただしい数のつくしが生えてきて、「毎年いやというほどツクシを食べた」そうです。「油でいためるものよし、酢の物にして、酒の肴にするのも乙なものである」という一文からは、えもいわれぬおいしそうな香りが漂ってきます。
澁澤は「近ごろでは日本でも、ツクシを食うことを知らない若者がいて、驚いてしまうことがある。拙宅にくる若い編集者に、酒の肴として、お小皿にツクシを盛って出してやると『へえ、食べられるのですか』などといって、あきれたような顔をしている」ともつづっています。
マルキ・ド・サドやジャン・コクトー研究の第一人者として、どちらかといえば“西欧”イメージの強い澁澤が、意外にも淡白な日本食を好んでいたことがわかる挿話といえるかもしれません。 「だいたいツクシは、食べても美味であるが、あのなんともいえない愉快な形の頭をしたヤツを、摘むのが面白いのである。土筆とはよくいったもので、あれはまさに地面から顔を出したペンシルであろう」という澁澤の言葉からは、ささやかな自然の贈り物に対する、ユーモラスで温かな視線が感じられます。 |